待ち時間
待ちあわせをした。おもいのほかはやくついてしまい、ただつったっているのもなんなので、あたりの路地をうろついた。ある家の前を通りかかると三味線の音がする。ペン、ペペペン、ペンペンペン、、、旋律はよどみなく音程も抑揚も確か。まるで着物をきて白粉をぬった女形役者の台詞のようだった。
音のする一軒家には半畳くらいの窓が横に四枚ほど並んでいて、すべて障子で目隠しされていた。その障子を眺めながら聴きいっていたのだけど、人通りがちらほらあり、もしかして不審者と間違われるのじゃないだろうかと不安になった。それではいけないので、その家に背をむけ、向かいの家をぼんやり眺めるようにして三味線を聴いた。あのくらい達者に弾けるとなるとどこかの舞台で仕事として弾いているか、お師匠さんなんだろうか。いずれにせよ、もったいないくらいの待ち時間だった。