水をかく。足をまげる。息をつぐ。
プールがあるおおきな部屋のドアをあけると、
暖房がきいているのかとてもあたたかい。
室温が一気に高くなり、すこしだけコインランドリーの乾燥機のにおいがする。
さて泳ぎ方をおぼえているのだろうか?
体力は落ちていないだろうか?と不安をかかえながら
水の温度をたしかめる。
あたたかい。
ちょうどよいくらいに調整されている。
そりゃそうか。
プールの壁をける。
腕をのばす。
イカになったみたいだとおもう。
水のなかで目をあけると不思議な世界がそこにひろがる。
まっすぐにひかれた青いライン。水の色。
視界のうえのほうは波うった鏡のようになっていて
すべてがゆらめいている。
泳ぎながらおもう。
「20年くらい毎日飽きずに続けられることをみつけられたらいいな。」
すると、すぐに反論する声が聞こえる。
「毎日なんて退屈しないですか?」
その反論にまた反論する。
「だから、退屈せずにいれるくらい好きだとおもえるものをみつけたいんだよ。」
手で水をかく。
かえるのように足をまげる。
息をつぐ。
むこうの壁までその動作をくりかえす。
その動作をくりかえす。
自分できめた回数がおわるまで。