声とギター

2006年03月24日00:20

なぜだか知らないが、21時から体験があった。

時間になっても、被体験者がいらっしゃらない。
たぶん、事務的な手続きをしてるんだとうと思っていた。


21時ともなれば、他の部屋の音もやみ、
館内の放送もなくなり
おまけに電気まで落とされていた。


とにかく、静かだった。

ちいさな部屋で僕は時間をもてあました。


ふいに、ボサノバが弾きたくなって
ずいぶん昔に覚えたコルコバードという曲を弾こうとしてみた。


いくつかの進行を思い出せなかったけど
とてもしずかな空間に流れるボサノバがとてもステキだと思えた。


聞き覚えのポルトガル語で、でたらめにささやくように歌ってみた。

そう、ジョアンがいつもやるように。



たしか2・3年前、ボサノバの神様:ジョアン・ジルベルトが
はじめて日本に来た。


その年、彼は横浜と東京でコンサートをやったんだけど
僕は、幸運にも東京国際会館(って名前だったっけな?)での
公演を観ることができた。



ギターとジョアンの声
緊張感につつまれた聴衆が動く音


その日、あの空間には、なんだか不思議な雰囲気がただよっていた。


会場にいる大多数の人が、ジョアンのことを
「好き」を通り越して尊敬しており、
彼の移り気さをしっているために、
怒らせないように緊張していた。

実際、かれは「ステージに着ていく衣装が気に入らない」
といって、コンサートをキャンセルしたことがあるし、
指定したマイクがないといって、帰ってしまったことがあった。

だから、僕らは、彼の機嫌を損ねないように
みんなで協力しあっていた。

本当に咳をするのにも気を使うくらいだった。

携帯なんて鳴らそうものなら、会場の人達に
殺されそうな勢いだった(本当です)

ほとんどの人が彼と彼の音楽を
尊敬し愛しているということが分かった。


経験したことがないくらい素敵だった。


まるで、ホテルの一室でジョアンが隣に座って
ギターを弾きながら歌ってくれているかのようだった。


手を伸ばせばつかめるとこにあるくらい近くに感じる音楽


ギターとささやき、という凄くシンプルな編成なのに
すごく奥行きのある音楽


今はまだ、かすかに思い出すことができるんだけど
そのうち忘れてしまうとおもう。

もう、二度とあんなすばらしい体験ができることはないんだと思う。


本当にすばらしかったな

と、静けさの中で、僕は素敵な思い出でを一つ一つ確かめていた。


木製の椅子に座り
コンデンサーマイクとガットギター
目の前に、これからやる曲のリスト(しかし曲順は決まってない)
時間を計るための目覚まし時計
ミネラルウォーター


ほんとうに、ジョアンの部屋に招かれたような夜だった。




(ということで、いまはジョアンの「三月の水」を聴いています)